ゴミ屋敷は日本の社会問題と深く結びついており、容易な解決は望めません。ゴミ屋敷の住民はなぜ片付けられないのか、ゴミ屋敷によってどんな悪影響があるのかを紹介します。また、ゴミ屋敷の今後や、マンションのゴミ屋敷問題についても併せて見てみましょう。
ゴミ屋敷は社会の問題
ところ狭しとゴミを集めたゴミ屋敷は、近年注目される社会問題の1つです。ゴミ屋敷によって引き起こされるトラブルや行政の対応について紹介します。
害虫や悪臭など衛生状態の悪化
近隣の家のゴミ屋敷化によって最も懸念されるのが、住環境の悪化です。
ゴキブリやハエなどの害虫が増えれば、食中毒などのリスクが高まります。都度駆除しても発生源に対処できなければ、根本的な解決にはなりません。ゴミ屋敷を発生源として害虫が繁殖するような環境は、衛生状態が『最悪』といえるでしょう。
また、悪臭が酷ければ、窓を開けるのも困難です。天気のよい日でも常に部屋干し、家から出ると悪臭で気分が悪くなる、といった環境では、生活そのものがストレスになるでしょう。
火災のリスク
ゴミの管理が行き届かないゴミ屋敷では、火災が発生するリスクも高くなります。炎天下にスプレー缶を放置していたり、燃えやすい物を無防備に家の前に置いていたりすれば、自然発火や放火が常に心配されるでしょう。
また、掃除をしなかったり設備管理が行き届かなったりするゴミ屋敷では、漏電などの危険も高いと予想されます。ゴミだらけの家は一たび火が付けば燃え広がるのが早く、周辺の家も無事には済みません。
事実、2015年8月の愛知県豊田市では、ゴミ屋敷から出火した火が延焼し、近隣の家3棟が全半焼するという事件がありました。火事の原因は、ゴミ屋敷の住人が付けた蚊取り線香の火が周囲の新聞紙に燃え移ったためです。このゴミ屋敷ではそれまでに数度ボヤ騒ぎを起こしており、周辺住民が心配していた矢先の火事でした。
ゴミ屋敷の近くに住めば、もらい火の危険は常につきまとうのです。
名古屋市や横須賀市でゴミ屋敷条例が制定
東京都足立区でいわゆる『ゴミ屋敷条例』が制定されたのを皮切りに、その他の自治体でもゴミ屋敷に対処の根拠となる条令を定めています。
名古屋市は2018年4月に施行された『住居の堆積物による不良な状態の解消に関する条例』を根拠に、解消されないゴミ屋敷に対して行政代執行ができるようになりました。
また、横須賀市では『横須賀市不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例』を制定しており、この条例ではゴミ屋敷の住民の住所・氏名を明らかにした上での行政代執行が可能です。
両市ともこのようなゴミ屋敷条例を制定することで、長年にわたって住民トラブルの元となっていたゴミ屋敷を強制的に解消しました。ゴミ屋敷は今後も増えると見込まれることから、ゴミ屋敷条令を制定する自治体は増えていくと考えられます。
ゴミ屋敷についての疑問
ゴミ屋敷は衛生状態が悪く、深刻な健康被害が懸念されます。そこら中にゴミがあれば移動や食事さえも困難になるなど、生活上の苦労も増えるでしょう。それにもかかわらず、ゴミ屋敷の住民はゴミを捨てようとはしません。ゴミ屋敷の住民は、なぜあえて不便で不衛生な暮らしを望むのでしょうか。
なぜゴミを捨てない?
ゴミ屋敷の住民の多くは、『物を捨てられない人』です。
一見すると使い道がないような物でも、「いつか使うかも」「捨てるなんて勿体ない」と考えてしまいます。新品同様だったり高価だったりする物は特に捨てにくく感じるため、「とりあえず」取っておこうとします。こうした傾向は特に高齢者に多く見られ、物不足に苦しんだ経験がある人ほど顕著です。
物を惜しむ気持ちが『要・不要』の判断を鈍らせるため、不要な物でも捨てられません。
不要な物をなぜ集める?
度を越えて何でも集め、溜め込んでしまう人は『溜め込み症』が疑われます。溜め込み症とは『ホーダー』とも呼ばれる心の病気であり、精神疾患の1つです。症状としては、物を捨てることに苦痛を感じたり、物を集める一方で整理整頓はできなかったりなどがあります。
溜め込み症を発症している人は、日常生活に支障をきたすまでゴミが増えても、物を捨てられません。多くの場合、原因には孤独や恵まれない幼少期の記憶が潜んでいる場合が多く、改善には専門家によるカウンセリングが必須です。
この病気は本人に自覚が無いケースがほとんどのため、気付いた人が専門医を進める等のアクションを取る必要があるでしょう。
ゴミ屋敷のトラブルはなぜ増えている?
ゴミ屋敷によるトラブルが増加しているのは、ゴミ屋敷を直接取り締まる法律が存在しないからです。
他人の敷地にあるものは、本人が「ゴミではなく財産だ」といえば、誰も手を触れられません。憲法では財産権が保証されているため、ゴミ屋敷の住民の主張が尊重されます。
また、多くのケースでゴミ屋敷の住民は地域から孤立しており、話し合いも難しいでしょう。住人同士で話し合うことで、新たなトラブルが生まれる可能性もあり、危険です。
ゴミ屋敷トラブルについては担当の自治体に任せるのが一番ですが、『ゴミ屋敷条例』などを持たない自治体なら、ゴミ屋敷トラブルを解決するのは困難でしょう。
ゴミ屋敷は今後も増加が予想される
全国的に増えていると言われるゴミ屋敷トラブルは、今後も増加すると予想されます。ゴミ屋敷の発生には日本が抱える高齢化問題などの社会問題が隠れており、原因が解消されない限りゴミ屋敷は無くならないと考えられるためです。
ゴミ屋敷問題の背後にはどんな問題が隠れているのでしょうか。
高齢化の進行
日本の場合、高齢化はすさまじいペースで進んでいるといわれており、増加する高齢者がますます多くのゴミ屋敷を生み出すと予想されます。
高齢化の進行具合は、全人口に対し65歳以上が占める割合を表した『高齢化率』で推測可能です。一般的に数値が7%を超えると『高齢化社会』、14%以上で『高齢社会』、21%以上で『超高齢社会』となります。
日本の場合、2010年にはすでに超高齢社会に突入しており、2025年には高齢化率およそ30%、2060年にはおよそ40%という高い数値が予想されています。
ゴミ捨てや片付けをする体力が無くなったり認知症を患ったりしている高齢者にとって、ゴミを適切に処分するのは困難です。周囲の協力を得られない世帯が増えれば、ゴミ屋敷の増加は止められないでしょう。
一人暮らし世帯の増加
高齢化が進むと、連れ合いに先立たれて1人で暮らす独居老人も増えると予想されます。2人なら出来ていたゴミ出しも、1人では困難です。ゴミを捨てたいのに捨てられないという状況が続けば、家は当然ゴミ屋敷になるでしょう。
男女、年齢問わずゴミ屋敷化のリスクがある
男女関係なく、ゴミ屋敷になりやすいのは忙しすぎる一人世帯です。ほとんどの人は私生活がおろそかになっているため、片付けやゴミ捨てに向かう気力がありません。「自分1人だからゴミ屋敷でも構わない」「誰にも迷惑はかけていない」などと考えれば、ゴミ屋敷化は止められないでしょう。
高齢者も若者も、ゴミ屋敷化する背景には『孤独』『孤立』が潜んでいます。社会との繋がりが希薄になるほど、他人の気付かないところでゴミ屋敷化が進行するのです。
マンションでもゴミ屋敷が増加中
戸建てのゴミ屋敷だけではなく、マンション内部がゴミ屋敷と化しているケースも増加しています。こちらも戸建てのゴミ屋敷と同様に周辺環境に悪影響を与えるほか、マンションそのものの資産価値さえ下げてしまうことがあります。
外から状況がわからない
マンションのゴミ屋敷の特徴は、外からはゴミ屋敷だと気付かれないという点です。マンションは扉を閉めてしまえば外との繋がりが遮断されるため、中をのぞかれない限りはゴミ屋敷だとばれません。外部にばれる頃にはゴミ屋敷レベルが相当なものとなり、悪臭が漂い、害虫が大量に発生しているでしょう。
こうした部屋に住む人は、意外に小ぎれいな身なりの人が多く、「まさかあの人が」というような人がゴミ屋敷に住んでいるケースも多いようです。
競売物件はゴミ屋敷の可能性が高い
競売物件は、何らかの理由で差し押さえられ、裁判所が行う不動産の競売手続きに回った物件です。
競売になる理由の多くはローンが払えず差し押さえになったケースですが、このような物件の持ち主は計画性が無くお金の管理が苦手な人がほとんどです。お金の管理と同様部屋の管理が苦手な人も多く、ゴミ屋敷に当たる確率も高くなります。
マンションの競売物件に関しては、ゴミ屋敷の可能性を考慮しておきましょう。
競売物件は、不動産業者を介する物件よりも3割程度安く購入できると言われており、安く物件を入手したい人にはメリットが大きいと言えます。ただし、事前の情報が少ない、瑕疵担保責任を問えないなどのデメリットもあるため、物件について慎重に検討して購入することをおすすめします。
まとめ
高齢化や1人世帯が増える日本では、今後もゴミ屋敷が増えると予想されます。ゴミ屋敷は周囲の住環境を著しく悪化させるだけではなく、住民同士に無用なトラブルを発生させます。
家を購入する際は、ゴミ屋敷の有無だけではなく、ゴミ屋敷化しそうな家がないかについても確認しておくとよいでしょう。また、マンションのゴミ屋敷も増加しているため、こちらも事前の調査を徹底することをおすすめします。