ゴミ屋敷対策に条例を制定する自治体が増加。制定背景と全国の事例

近隣にゴミ屋敷がある人は、住んでいる自治体に『ゴミ屋敷条例』があるかどうかを確認してみましょう。ゴミ屋敷条例があれば、自治体がゴミを強制撤去することも可能です。ゴミ屋敷の現状と自治体の取り組みについて紹介します。

本記事の監修者

遺品整理士:目黒 大智


一般社団法人遺品整理士認定協会 認定遺品整理士(第 IS26076号) 年間1000件以上の不用品回収、遺品整理案件に携わる。「遺品整理・不用品回収の片付け業者 CLEAR-クリア-」代表取締役。詳しいプロフィール
目次

ゴミ屋敷は大きな社会問題に

ゴミで溢れかえったゴミ屋敷は、今や大きな社会問題の1つです。家がゴミ屋敷化すれば、当人は勿論、近隣住民にも健康被害や火災が及ぶおそれがあり、ゴミ屋敷の存在そのものが地域の脅威となりかねません。

このように危険なゴミ屋敷がなぜ全国的に増えているのでしょうか。

高齢化と独居老人の増加

ゴミ屋敷の住民の多くは高齢者や高齢者の一人世帯です。

高齢者の家ほどゴミ屋敷化しやすい原因については、まず体力の低下が挙げられます。

家の片付けは、意外にも気力・体力を使います。『細かくゴミを仕分け、指定された日に決められた場所まで持っていく』というのは、若い世代でさえ面倒に感じることがあるでしょう。高齢者にとって負担はさらに大きく、ゴミ出しに手間取ったりゴミをまとめきれずにいるうちに、家がゴミ屋敷と化してしまうのです。

また、気力・体力以外の理由としては、認知症も挙げられます。認知症を発症すると記憶障害や実行機能障害が現れることが多いため、ゴミ出ししたり計画的に片付けたりといったことが不可能です。一人世帯なら他に頼る相手もないため、家はゴミだらけになるでしょう。

老人以外の単身世帯のゴミ屋敷化が目立つ

ストレスの多い現代社会では、うつ病や精神的不安定さから片付け出来なくなり、家をゴミ屋敷にしてしまう人も増えています。このようなケースは高齢者世帯に限らず、孤独を感じがちな単身世帯で顕著です。

精神的に不安定になると、片付けに必要な『やる気』が湧いてきません。体力はあっても体が動かないため、ゴミ捨てや片付けが出来ないのです。

さらに悪化して『セルフネグレクト』を発症した場合、ゴミが溢れ悪臭がただようとしても、気にならなくなります。他人との関わりを拒否するため助けを呼ぶことも出来ず、ゴミの中で孤独死するケースも珍しくはありません。

ゴミ屋敷に悩む自治体が増加中

火災や悪臭、衛生被害の原因となるゴミ屋敷は全国の自治体でトラブルを起こしています。ゴミ屋敷に起因するトラブルのいくつかを見てみましょう。

豊田市でゴミ屋敷火災が発生

2015年8月、愛知県豊田市のゴミ屋敷を火元に火災が発生し、近隣住宅3棟が全半焼しました。原因はゴミ屋敷に住む男性の蚊取り線香の火が周囲の新聞紙などに燃え移ったためと言われています。

このゴミ屋敷は火災発生の12年前からゴミを集め始めており、それまでに4度もボヤ騒ぎを起こしていました。途中、市役所や近隣住民との話し合いも持たれていましたが、完全なゴミ屋敷改善には至らず、火災が発生してしまったのです。

横浜市では通学路にゴミが溢れる

神奈川県横浜市鶴見区では、閑静な住宅街にある家がゴミ屋敷と化し、周辺住民を脅かしています。ゴミ屋敷に面した道は、毎日多くの子供が通る通学路です。ゴミ屋敷から溢れたゴミによって子供が怪我をする危険があるため、通学時間には近隣住民がゴミの側に立って、子供を誘導しなければなりません。

このゴミ屋敷は2005年頃からゴミが増え始めましたが、家族がなくなり住民1人になって以降、ゴミが増えるスピードはさらに速くなりました。自治会長や区役所を交えた話し合いも効果はなく、近隣住民は増え続けるゴミに頭を抱えています。

ゴミ屋敷対策への課題

近隣の家がゴミ屋敷化した場合、個人で動くのはおすすめできません。過去には住民同士のトラブルが発生したケースもあり、まずは自治体や警察に相談するのが一番です。

現在、ゴミ屋敷問題に対してはどのような対策が取られているのでしょうか。

現在の法律では限界がある

ゴミ屋敷は近隣の家に多大な不都合と迷惑を与えますが、現在の法律では対処できません。誰が見てもゴミと分かるものであっても、ゴミ屋敷の住民が「財産だ」と言えば、ゴミでも勝手に処分することは不可能でしょう。

ゴミ屋敷によって被害を被った場合、裁判に訴えることは可能です。しかし、ゴミ屋敷そのものを取り締まる法律はないため、どの条項を利用して訴えるか、どのような効果が望めるかはケースバイケースとなります。

自治体ごとに条例制定の動きが加速

全国にゴミ屋敷が増えていることから、自治体によってはゴミ屋敷を取り締まるための条例を制定しているところがあります。

このようにゴミ屋敷に関する条例が制定されている地域なら、行政に相談することで状況を改善できるかもしれません。ただし、こうした条例を制定している自治体は残念ながらまださほど多くはありません。まずは自分の住む自治体に「ゴミ屋敷条例のようなものはあるか」と問い合わせてみることをおすすめします。

大阪市、足立区などで条例が制定

ゴミ屋敷に有効な条令として注目されたのが、2013年より施行された東京都足立区の『足立区生活環境の保全に関する条例』(通称:ゴミ屋敷条例)です。

また、2014年より施行された大阪府大阪市の『大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例』も、同じくゴミ屋敷に積極的に対応するものとして注目を集めています。

ゴミ屋敷条例とは?

ゴミ屋敷に対して有効な手段が取れるとして注目を集めるのが全国的に広がっているいわゆる『ゴミ屋敷条例』です。条令の内容や課題について詳しく紹介します。

強制的にゴミ屋敷を片付けられる条例

ゴミ屋敷条例とは、いわゆるゴミ屋敷を行政が強制的に対処するための、根拠となる条令です。前述のとおり国の法律でゴミ屋敷を取り締まるのは困難なため、現在行われているゴミ屋敷対策はこの条例に従って施行されています。

全国で最も早くゴミ屋敷条例を施行したのは、前述の東京都足立区です。

現在、これをモデルケースとして、ゴミ屋敷条例に類するものを制定する自治体は増えています。ゴミ屋敷条例を施行している自治体なら、ゴミ屋敷に対して出来ることが増え、注意・勧告のみならず、行政代執行などを実行してゴミ屋敷解消に強い措置を取ることが可能です。

行政代執行の流れ

自治体にゴミ屋敷条例があったとしても、行政代執行までにはいくつもの手順を踏まなければなりません。
行政代執行までの流れをざっと見てみましょう。

  1. 住民による相談
  2. 自治体による調査
  3. ゴミ屋敷への助言、勧告
  4. 命令
  5. 行政代執行

住民からゴミ屋敷についての相談があった場合、自治体はまず現状調査を行います。その結果を持ってゴミ屋敷の住民に助言や勧告を行い、改善を求めていくのです。ここでもまだ状況が改善されない場合はより強い命令が下され、住民が命令にも従わないと確認されれば、ついには行政代執行が発動されます。

京都市で行政代執行が行われる

全国初の行政代執行は、2015年11月、京都市で行われました。

市は09年に近隣住民に相談を受けてから撤去指導等を行っており、11年に条例が施行されてからは100回以上もゴミ屋敷を訪問したそうです。

度重なる指導にもかかわらず現状が回復されなかったこと、周辺住民にも支障が出ていること、同年8月には豊田市でゴミ屋敷が火元の火災が発生したことなどから、市は行政代執行が必要と判断しました。当日は市職員がゴミを撤去し、2時間ほどでゴミ屋敷は解消され、撤去されたゴミは軽トラック5~6台分にもなったそうです。

課題も多い

ゴミ屋敷条には課題も多いと言われています。

まず、行政代執行までに踏むべき手順が多いという点です。例えば京都の場合は、住民の相談から行政代執行が行われるまでに6年もかかっています。ゴミ屋敷の側に住む人間にとっては、かなり長く、辛い時間です。

また、ゴミ撤去にかかる費用の問題もあります。ゴミの撤去費用の扱いについては自治体によって異なり、半額援助するというところもあれば、上限を設けているところなど色々です。しかし、ゴミ屋敷の住人に返済能力がない場合、ゴミ屋敷を解消しても費用の回収は望めません。

ゴミ屋敷の解消は高齢化や孤独、貧困など様々な原因に根本から対処しなければ不可能です。必要な人には支援を徹底する必要がありますが、かかるコストをどこから調達するのかは大きな課題となるでしょう。

まとめ

高齢化が進むにつれ、ゴミを溜め込んで周囲に悪影響を及ぼすゴミ屋敷が社会問題となってきました。ゴミ屋敷は悪臭や害虫、害獣を呼び寄せるため、周辺の環境を著しく悪化させ、健康被害も懸念されます。さらに、火災が発生すれば火は近隣にまで広がるおそれがあり、早急な改善が望まれるでしょう。

現在ゴミ屋敷を直接取り締まる法律はありませんが、自治体によっては条令を制定してゴミ屋敷問題に当たっています。条令があれば行政が強く指導することも可能なため、ゴミ屋敷トラブルで悩んでいる人には心強いでしょう。

ゴミを溜め込む人は、直接話し合いをしてもうまくいかないケースがほとんどです。無駄に神経をすり減らすよりも、行政や警察に相談することをおすすめします。

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