ゴミ屋敷を強制撤去する方法とは?行政代執行の条件と手続き

ゴミ屋敷条例を制定している自治体なら、ゴミ屋敷の強制撤去が可能です。近所の家がゴミ屋敷化した場合は、速やかに自治体に相談してみましょう。行政代執行の条件と、どのように行われるのか、さらには課題についても紹介します。

本記事の監修者

遺品整理士:目黒 大智


一般社団法人遺品整理士認定協会 認定遺品整理士(第 IS26076号) 年間1000件以上の不用品回収、遺品整理案件に携わる。「遺品整理・不用品回収の片付け業者 CLEAR-クリア-」代表取締役。詳しいプロフィール
目次

ゴミ屋敷条例を制定する自治体が増加中

ゴミ屋敷とは、敷地内いっぱいにゴミを所有し、溢れさせている家です。近隣の家は常に悪臭や害虫、火災の危険に悩まされることとなるため、ゴミ屋敷の主と周辺住民の間にはトラブルが絶えません。周辺地域に大きなダメージを与えるゴミ屋敷は年々増加しており、今では社会問題の1つと呼ばれるまでになっています。

現在頻発するゴミ屋敷トラブルに対処するため、全国のいくつかの自治体が制定・施行しているのが『ゴミ屋敷条例』です。

ゴミ屋敷条例の現状について紹介します。

足立区で初のゴミ屋敷条例が制定

全国初のゴミ屋敷条例は、2013年に施行された東京都足立区の『足立区生活環境の保全に関する条例』です。この条例では、土地を所有・管理している区民は生活環境を良好に保ち、区や行政機関の施策に協力しなければならないということが記されています。

足立区はこの条例を根拠にして、ゴミ屋敷の行政代執行をしたり、撤去費用を100万円まで援助したりできるようになりました。ゴミ屋敷トラブルに積極的に取り組む足立区のゴミ屋敷対策は『足立区モデル』と呼ばれるようになり、全国的に広がるゴミ屋敷条例制定の先駆けとなったのです。

現在の法律ではゴミ屋敷に対応できない

自治体がゴミ屋敷条例を制定したのは、増え続けるゴミ屋敷に対応できる法律が無いためです。現在の法律では、敷地内がゴミだらけだとしても、土地所有者が「これは財産だ」と言えば、他人が触れることさえ出来ません。

とはいえ、ゴミ屋敷を放置すれば近隣の生活環境が著しく悪化するうえ、火災やゴミの崩落などによって住民の生命が脅かされる恐れもあります。法律で対応できないところは自治体が制定する条例を根拠に対応するのがベターでしょう。

ゴミ屋敷条例のある区なら、必要な手順を踏んだ後、行政代執行に取り掛かるため、ゴミ屋敷の解消も可能です。

ゴミ屋敷へ自治体が行う対応

ゴミ屋敷条例のある自治体では、段階を追ってゴミ屋敷に対処します。どのような対応が行われるかについて、足立区を例に見てみましょう。

相談を元に調査

『近隣の家のゴミから悪臭がする』『敷地内の樹木が越境して困る』等のトラブルがある人は、まず区の『生活環境保全課』に相談します。相談を受けた課が係員を派遣し、該当建物や土地の所有者について調査を行うのが初期段階です。

指導、勧告の実施

調査が終われば、次の段階は土地や建物所有者への指導、勧告です。課による調査で『土地や建物の状況が不良であること』『適切に管理されておらず、近隣に被害を与えていること』が判明すれば、自治体が所有者に改善を要求し、働き掛けてくれるでしょう。

命令に従わない場合、行政代執行を実施

所有者が指導や勧告を受け入れず、かつ悪質だと認められた場合には、勧告よりも強い『命令』が行われます。さらに、命令を受けても正当な理由なく従わない場合は『公表』により、規則で定めた内容が公にされます。

正当な理由なく命令を無視し、所有者が現状を放置すした場合は、『行政代執行』が行われます。自治体によって強制的にゴミの撤去などが行われ、その費用は、後で所有者に請求されます。

強制撤去の事例

増え続けるゴミ屋敷に対し、全国初の強制撤去を行ったのは2015年の京都府です。この事例以降、強制撤去に踏み切る自治体は続々と増えています。

強制撤去が行われた過去の事例について、名古屋市と横須賀市のケースを見てみましょう。

愛知県名古屋市

2018年7月3日、愛知県名古屋市中区の有名なゴミ屋敷が強制撤去されました。このゴミ屋敷は3階建てビルいっぱいにゴミが溜め込まれ、溢れたゴミは敷地外にもはみ出していたほどです。2015年には火災が発生したこともあり、近隣住民にとっては、危険な状態だったと言えるでしょう。

このようなゴミ屋敷状態は10年以上も続きましたが、2017~18年に名古屋市がゴミ屋敷条例『住居の堆積物による不良な状態の解消に関する条例』を制定・施行したことにより、状況が一変しました。条例が施行された2018年4月からわずか3か月後には、ゴミ屋敷の強制撤去が行われたのです

現在ゴミ屋敷の住民は他所へ転居しましたが、転居先でもゴミを溜め込まないよう、名古屋市は監視を続けています。

神奈川県横須賀市

横須賀市は、『横須賀市不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための条例』を根拠に、2018年8月、市内のゴミ屋敷の強制撤去に踏み切りました。

ゴミ屋敷の所有者の男性のもとには、事前に市職員が100回も訪問を行い片付けを指導しましたが、ゴミの解消には至らなかったそうです。さらに、強制撤去が行われる前には男性の氏名なども公表されましたが、男性はゴミ屋敷を放置し続けました。

こうして行われた強制撤去は2時間30分ほどで終了し、ベランダや共有地に溜め込んでいたゴミ1710kgが回収されました。かかった費用については、すべてゴミ屋敷所有者に請求されます。

行政代執行の課題

ゴミ屋敷のゴミ撤去に有効な行政代執行ですが、かかる時間や費用については、未だに議論が続いています。また、強制撤去が必ずしもゴミ屋敷の解消には繋がらないケースもあり、課題は多いと言えるでしょう。

実施までに時間がかかる

住環境を悪化させるゴミ屋敷は一刻も早く解消してほしいものですが、どんなゴミ屋敷でもすぐに行政代執行できるわけではありません。

住民が自治体に相談をしても、行政代執行に入るまでには指導や勧告、命令を執り行う必要があります。行政代執行はいわゆる『最終手段』のため、そこに至るまでには多くの手順を踏まなければならないのです。

かかる時間が長いほど、ゴミ屋敷周辺の住民は不便を強いられることになり、ゴミ屋敷が強制的に撤去されるまでは、火災の不安や害虫などにおびえて暮らさなければなりません。

強制撤去にかかる費用負担

ゴミ屋敷の片付けは、片付け業者に依頼すると数10万~100万円以上かかるケースがあります。程度の酷いゴミ屋敷なら相当な金額がかかることも予想され、費用負担はかなり多くなるでしょう。

行政代執行が行われた場合、まずかかる費用は自治体が負担し、執行後にゴミ屋敷所有者に請求します。これを納めない場合は、税金と同様に強制徴収が認められており、費用は全て所有者持ちとなります。

ただし、『100万円までは自治体が負担する』と定めている足立区のような自治体では、「ゴミに税金を使うのか」という批判の声も上がっているようです。強制代執行によって発生する費用を誰が負担するのかは、大きな問題と言えるでしょう。

再発の可能性がある

ゴミ屋敷のゴミを強制撤去すれば、とりあえずはきれいになりますが、ゴミ屋敷の原因が解消されたわけではありません。

ゴミ屋敷の住民の中には認知症を患っていたり、精神的な疾患を患っていたりするケースもあります。このような場合、一旦ゴミが無くなっても再びゴミ屋敷化する可能性は高いでしょう。ゴミ屋敷の再発を防ぐには、ゴミを撤去するだけではなく、住民のケアや継続した見守りが必要になってくるのです。

まとめ

全国的にゴミ屋敷が増えている中、多くの自治体がそれぞれに『ゴミ屋敷条例』を定め、対処にあたるようになりました。しかし、自治体が入ったからといってスムーズに解決するというわけでもなく、最終的に行政代執行されるまでには、長い時間を要します。

とはいえ、ゴミ屋敷トラブルを住民同士で解決するのは難しく、行政に頼るのがベターです。ゴミ屋敷トラブルが発生した場合は1人で悩まずに、まずは住んでいる自治体に相談してみましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次